最高裁判所第一小法廷 昭和32年(オ)391号 判決 1959年5月14日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人弁護士山沢和三郎の上告理由第一点について。
双務契約の当事者の一方は相手方の履行の提供があつても、その提供が継続されない限り同時履行の抗弁権を失うものでないことは所論のとおりである。しかし、原判決によれば売主たる被上告人は本件機械全部を買主たる山路新一に昭和二九年六月二八日までに約束通り引渡したというのであるから、山路新一は右引渡を受けたことによつて所論同時履行の抗弁権を失つたものというべきであり、従つてその後において、被上告人の代理人川原田某が右機械の「あひる」を取外して持ち帰つたからといつて、同人に別個の責任の生ずる可能性のあることは別論として既になされた被上告人の債務の履行に消長を来し、一旦消滅した同時履行の抗弁権が復活する謂れはない。されば右と同趣旨に帰する原判決の判断は正当であり所論る述の要旨は右に反する見解の下に原判決を非難するものであつて、採るを得ない。
同第二、第三点について。
しかし、被上告人が所論の主張をしあるいは所論証人の証言があつたからといつて、所論のように当然に契約が破棄されたものと認めなければならないわけのものではなく、また、所論証人が所論のように証言し且つ被上告人が所論の請求をしているからといつて、債務引受契約が当然に解除されたものと認定しなければならないわけのものでもない。所論は独自の所見に座するもので採るを得ない。
同第四点について。
所論は原判決に影響ある程の明らかな法令違反を主張しているものとは認められない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 入江俊郎)